Research STEP-2

STEP-2. OUR VISION AND PROJECTS

私たちの研究グループではジョーンズ行列トモグラフィー(Jones-matrix optical coherence tomography; JM-OCT) という技術を核とした様々な研究を行っています。2000年代以降、世界中の研究グループが学会、論文、共同研究などで相互作用しながら様々に機能拡張されたOCTが生まれました。そのような中、私たちの研究グループが中心となって、これらの機能拡張された様々なOCTを統一する理論が作られました。それが JM-OCT です。(JM-OCT誕生までの経緯は STEP-1.2 のムービー「私たちの歴史: FD-OCTと多機能OCT」を見てみてください。)

STEP-2.1. What is JM-OCT

ジョーンズ行列 (Jones matrix) というものを聞いたことがありますか?光学を学んだことがある人であれば「物質の偏光特性を表す行列」として学んだ方も多いと思います。しかし、ジョーンズ行列はそれ以上のものです。実際のジョーンズ行列は物質の持つ全ての光学特性を表現する行列です。生体組織のジョーンズ行列が分かれば、組織の持つ全ての光学特性がわかるのです。そして、生体と式のジョーンズ行列の3次元分布、すなわち、ジョーンズ行列のトモグラフィーを計測するのがJM-OCTなのです。

JM-OCTの原理

JM-OCT フーリエドメインOCTを拡張・改良した特殊なスペクトル干渉計です。(フーリエドメインOCTに関してはSTEP-1.2 のムービー「私たちの歴史: FD-OCTと多機能OCT」を見てみてください。)通常のフーリエドメインOCTとことなり、二種類の偏光で組織を照射します。これを2種類の入射偏光と呼びます。そして、組織から反射・散乱されたそれぞれの入射偏光のスペクトル干渉を個別に計測します。この計測により、組織の偏光特性だけでなく、すべての光学特性を含んだジョーンズ行列の3次元分布(トモグラフィー)を得ることができます。
 そして、このジョーンズ行列トモグラフィーに対して様々な演算を施すことで、組織の局所光散乱トモグラフィー、複屈折トモグラフィー、組織の時間ゆらぎのトモグラフィー、偏光均一性のトモグラフィーを得ることができます。この関係を下の図にまとめます。


これらのトモグラフィーのうち、局所光散乱トモグラフィーは組織の構造を表します。また、複屈折トモグラフィーはコラーゲンを、偏光均一性トモグラフィーはメラニンの分布を可視化しています。さらに、組織の時間ゆらぎのトモグラフィーは組織内の3次元の血流分布を表しています。

STEP-2.2. JM-OCT Projects
私たちの研究グループでは JM-OCT を原理、装置実装、臨床応用などの多方面から研究しています。私たちの取り組んでいるたくさんのプロジェクトの関係がまとめられているのが下の図です。


ここでは下から上に理論・技術の展開が示されています。また、中央から横方向に医学・生物研究への応用が示されています。

私たちのJM-OCT研究は基礎理論の構築から始まりました。この基礎理論は現在も年々アップデートされています。現在は、さらに計測精度を上げるための推定理論、計測信号の統計処理に関する研究(図のオレンジの部分)を行っています。また、実際にこの理論にも続いた計測コアシステム(イメージングエンジン)の開発を行い(緑の部分)、さらにこのイメージングエンジンを用いた臨床検査装置の開発(水色の部分)を行っています。

このようにして作られた装置を用いることで、生きたヒトの組織の様々な光学特性のトモグラフィーを得ることができます。このようなマルチ特性のトモグラフィーは今まで計測のできなかったものです。そのため、これらの情報、画像を適切に処理するための手法が存在しません。そこで、私たちの研究室ではこのマルチ特性トモグラフィーを適切に理解し、処理するような理論の研究および、それを用いた医療画像処理ソフトウェアの研究も行っています(薄い赤の部分)。

さらに、このようにして作られた装置、ソフトウェアは、実際に使用し、様々な臨床研究が行われています(紫の部分)。これらの研究は、筑波大学病院、東京医科大学などの協力グループといっしょにすすめています。

そして、近年では、これらの研究を統合した自動診断フレームワークを構築するところまでが視野にはいってきています。

Step 2.3. JM-OCT Device
それでは実際に、このようにして作られたJM-OCT装置を見てみましょう。まず最初にお見せするのは、私たちが初めて手作りした眼底用JM-OCT装置です。


光学プレートの上にすべて手作りで作られた装置ですが、実際にこの装置を使って眼底に異常のある患者さんを計測し、臨床研究を行っていました。

この装置を基盤とし、医療機器メーカーの協力をえて共同で開発史たのが最初の眼底臨床検査用JM-OCTプロトタイプ(通称 Ceratophrys-1) です。


この装置は安定、コンパクトな装置として制作され、実際に眼科検査室設置され臨床研究が進められています。

さらにここから一歩進め、実際の診療現場での使用を目指して筑波大で開発を進めているのが Ceratophrys-2 システムです。このでは干渉計、ジョーンズ行列計測機構、眼底走査機構などすべてが一つのユニットの中に組み込まれ、極めてコンパクト、かつ簡便に使用できるようになっています。

Step-2.3. What you see by JM-OCT
それでは、Step-2 の最後に、実際にJM-OCTを使ってどのようなものが見えるのか見てみましょう。下の図は「ポリープ状脈絡膜新生血管」という眼底疾患の患者さんの眼底JM-OCT画像です。3次元のトモグラフィー計測したものをボリュームレンダリングして表示しています。 


ここで灰色で表示されているのは光散乱をつかって計測された眼底の形状、緑で表示されているのが偏光均一性から得られたメラニンの分布、黄色で表示されているのが信号の時間揺らぎから抽出した血流のある部位です。赤の矢印で示した部分に大きな異常血管が形成されていることがわかります。その周辺は色素上皮と呼ばれる組織がとりまいています。色素上皮はメラニンが豊富なため、緑色に移っています。しかし、異常血管の上部では緑の信号が消えており、色素上皮組織がダメージを受けていることがわかります。
 JM-OCTの計測は5秒程度の短時間ですが、この短時間に3次元のトモグラフィーを撮影しています。最後に、この3次元データを使って再現したポリープ脈絡膜新生血管の3次元病態をムービーでご紹介しましょう。